明らかに事件現場の特殊清掃
今回の電話はいつもとは違います。「特殊清掃だけってやってもらえます?」 ご遺族様ではないとすぐわかったのですが、お尋ねすると不動産管理会社からでした。 「実は血で部屋が汚れてるんです・・大丈夫ですか?」 担当の方は異常に申し訳なさそうに言うので、 「普通じゃないな・・」とすぐ分かりました。 「明日お願いしたいのですが?」 明日は現場が朝から入っていたので別に日に調整を依頼すると 「何時になってもかまいません!!お願いします!」 緊急事態というのが電話を通じて伝わってきます。 結局夜の8時に現場のマンション前で待ち合わせをしました。
次の日現場をしていると担当の方から着信があります。 「本当に今日大丈夫ですか?」 藁にもすがる心境なのでしょう。 私どもは専門会社ですから・・・と現場作業をしながら説明しました。
昼過ぎにも着信です。 「何時ぐらいに来られるでしょうか?私も中の電化製品のメーカーと型番を控えないと いけないのですが、一緒に入ってもらっていいですか?」 どうも経験が浅い営業マンの方でしょうか? 「我々がいれば大丈夫ですよ!そんなすぐ終わる作業でもないので一緒に お付き合いしますよ!」 「よろしくお願いします。」 昨日から部屋に入るのがかなり気になっている様子でした。
そしていよいよ現場へ・・・ 外は暗くなり、マンションの前に行くとその営業マンの方は待ちくたびれた様子でした。 「一人で入れないので待っていました・・」 その時は、不動産管理会社に勤めていて、孤独死や自殺の現場に それほどビビッてしまっては仕事にならぬのでは・・・などと勝手に思って いましたが・・。 かなり緊張している営業マンの方をほぐしてあげようと談笑しながら部屋まで向かいました。
「では、よろしくお願いします!」と営業マンの方がドアを開けたとき 「うわぁぁぁぁ・・・」と迂闊にも声を上げてしまいました。 玄関を開けると・・・ 一面血の海になっており、時間が経過してしまいどす黒く、それは目を覆いたくなる 光景でした。 中に入って行くほど血の量は減っていました。 一番奥のリビングに2~3滴血が落ちているのが始まりかと思われます。 そして(家財道具が)何もない部屋が2つ程ありました。
私の推測では・・・ リビングでおそらく刺されたのではないかかと思います。 びっくりした被害者の方は必死に逃げようと玄関へ向かいます。 玄関に向かう通路には壁に血のついた手形があちこちにあり、出血跡も多くなってきます。 一度風呂場に逃げ込んだのでしょう。 風呂場も一面血の海になっており、争った形跡があります。
そして最後に玄関へ・・ 玄関は凄惨を極めます。 血は壁紙に飛び散り、底は血で1cmぐらい固まっています。 そして確かに・・被害者の方は玄関のドアノブに手を掛けてます。 最後の力を振り絞って外に出て助けを求めようとしたのでしょう。残念ながら血で赤く染まったドアノブから、倒れていく5本の指の跡が・・ そこで息絶えたのでしょう。 「これを清掃するのか・・こんなん初めてや・・・」 少し気合を入れて作業に取り掛かろうと思いました。
しかし、営業マンの方が光景を見て完全にノックダウン・・部屋に入って来れません。 「私どもがきれいにしてあげるから、安心して仕事してや!」 血の気を失った営業マンの方が部屋に入って行き、仕事をし始めました。 この日の特殊清掃はほぼ血でしたので、作業自体は困難ではありません。 30分ほどして、そういう現場ではないぐらいきれいにしました。
「終わりましたので精算お願いします。」 すると営業マンの方が 「お願いですから帰らないで下さい(泣)」と懇願してきました。 「そうでした、最後まで付き合うと約束しましたね。」 そう言って、彼の仕事の手伝いをして無事完了となりました。
後で聞いた話ですが、ご遺族の方はあまりにショックで現場には入ることが出来ず すべて委任されたそうです。 最近自殺も流行っているみたいですし、恐ろしい事件が相次ぎます。 私も仕事がなければ困りますが、やはりいいものではありませんね。 だからこそ我々の仕事が無くてはならないのかも知れません。 細かな配慮を忘れず明日も現場頑張ってきます!