死臭が充満した孤独死現場

今回は、強烈な死臭が充満した孤独死現場…しかし、アパートに住む近隣住民からのクレームは全くありませんでした。その理由は…。
まず初めに、今回のご依頼者であるご遺族の方々と対面したのは、警察署でした。お兄様が死後2週間で発見されたとの事でした。「私たちは、東北から出て来ているのです。兄とは20数年も連絡を取ってなかったので…」ソファに小さく座っている、高齢のご兄弟の姿が印象的でした。
検死を終えて警察の方がご遺族様に話しかけます。「事件性はありません。故人に対面されますか？ だけど腐敗が酷く、会わない方をお勧めしますが…」すると弟様が「我々は兄が生きていた面影を抱いていたいので、遠慮させて頂きます」と警察の方に仰いました。そして私は、警察の方から現場の部屋の鍵を預かり、見積にお伺いしました。

駅のすぐそばにある古いアパートが現場です。ご遺族様が大家さんを呼んでいたので、アパートの前の入口で大家さんが待っておられました。挨拶もそこそこに、「あんたが掃除屋かい？大丈夫かい？凄いことになってるよ」と心配そうに話しかけてきます。「大丈夫ですから安心して下さい」と伝えます。
そしてアパートに入った時です。もの凄い臭いが全員を襲います。私は慣れているものの、ご遺族様にはかなりの衝撃だったと思います。ご遺族様はあらかじめ用意していたマスクを掛けられました。 マスクにハンカチを入れていた方もいらっしゃいましたが、顔は苦悶に満ちた表情でした。

玄関前に立つと、警察の方がご遺体を運び出す際に出来た血の靴跡が べったり付いています。白い廊下だったのでものすごく目立ちます。「これは拭かなあかんでしょ…」と心で呟きながら部屋のドアを開けました。すると部屋からは、今までの10倍ぐらいのもの凄い死臭が襲い掛かります。たじろぐご遺族様に「では、見積に行って参りますので、ここでしばらくお待ち下さい」と言い残し突入しました。すると、ご遺族様も後に続いて入室されてきます。それは、お兄様が生活していた場所をしっかり心に刻み込もうとしているようでした。見積を終え、「ここではお話できませんから、表に出ましょう」 かなり動揺しているご遺族様に話しかけました。すると、弟様が仰いました。 「兄は、兄弟の中で一番優秀だったのです。会社も大手に勤めていました。なぜ、あのようなお風呂もない薄暗い部屋で最期を迎えたのか…理解できません」初めて体験される臭いと、状況に戸惑いを隠しきれないご様子でした。

アパート内には死臭が充満しています。早速作業に取り掛かるために、準備に入りました。しかし、そこでひとつ気付いた事がありました。それは…住民の方が何も言わないことです。通常、アパートの入口から、これほど強烈な死臭が漂っていると、住民の方が大家さんに必ずクレームが入るのが通常ですが、大家さんに尋ねても「いや～…誰も何も言わないんですよ」と仰っていました。
作業を始めると、住民の方と廊下ですれ違ったので「ご迷惑をお掛けしています。もうすぐ臭いも収まりますので…」とあいさつすると、軽く会釈をしながら「ええよ…明日は我が身やから…」と。 これは私の意見ですが…アパートには凄まじい死臭が漂っていますが、誰一人として『孤独死』の事実を口にしません。ここの住民の方は皆ご高齢者です。だから皆、孤独死の恐怖と戦っているのではないでしょうか？ 「自分もこうなってしまったら…」という怖さから、現実を受け止めているのではと思うと胸が苦しくなりました。
住民の方が作業を見ながら沈痛な面持ちをされていたのは 「近所で孤独死があった」という事だけではないような気がしました。孤独死を防ぐのは難しいでしょうが、発見を早めることは可能です。各地域でのコミュニティの強化を祈るばかりです。