自殺願望の強い人が選んだ手段とは

自殺現場の特殊清掃の依頼を受けました。ご依頼主は故人の弟様です。「兄が自殺してしまい、部屋が相当汚れているんです。警察には、まだ部屋に入ってはいけないと言われています」詳しく訊くと、死後5日で発見されたそうで、近所の方が尋常ではない臭いがしたことで通報したとの事でした。現場は文化住宅の2階の部屋で、1階の真下の部屋には体液が上からポタポタ落ちてきたというから驚きです。というか、その状況でよく住んでるなと思います。

数時間後、警察より入室許可が下りたと弟様から連絡があり、現場にて待ち合わせをしました。「私も部屋に入らないとだめですか？？」弟様の顔がこわばっていて、明らかに入りたくないようなので「大丈夫ですよ、見てきますからここで待っていてください」と強がるものの、私でも一人で現場に入るのは少し不安なものです。
入室して先ず目に付いたのが、部屋の柱に巻きつかれているネクタイ…柱にネクタイを結んで自殺されたらしく、そのままの状態で残っていました。猛烈な臭いの中、家財道具のチェックを行います。 見積を終了させ弟様に説明をし、作業を行うことになりました。

詳しく話を伺うと、お兄様はひきこもりで、唯一心のより所であったお母様が最近倒れて入院してしまい、そこから自殺願望が強くなっていったそうです。生きていくことに絶望しているような発言が多くなり、この度の自殺に至ったとのことでした。
作業を始めると、あることに気付きました。部屋からはロープ、鋭い形状の刃物、大量の睡眠薬、そして硫化水素…自殺に使われそうな物が次々と出てきました。色々な死に方を模索していたのでしょうか…そして最期に選んだ手段が、ネクタイを使った首吊り自殺…。そこまでして死にたかったのか、迷いや戸惑いがあったのか、それとも本当は誰かに止めてほしかったのか…心境は理解できないですが、自殺をすると残されたご遺族が困ります。ご近所の方や大家さんにも迷惑が掛かります。誰も得をしません。

この日も作業をしていると、ご近所の方から「ご苦労様、大変だったね」と声を掛けて頂きました。これは本当に嬉しいものです。ご依頼主の弟様も、短い間に搬出、清掃、そして貴重品の仕分けまでした事に大変驚かれていました。「何か、ほっとしました…」弟様には、社会に馴染まないお兄様が不安でしょうがなかったのでしょう。今回の清掃のことだけではないのでしょう…『ほっとした』という言葉が、今も心に残っています。