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今までで最も過酷なゴミ屋敷


今までで最も過酷なゴミ屋敷長年整理現場を行っていると、心に残る現場がたくさんあります。感動した現場や、切ない現場、色々ある中でも『一番過酷な現場』と言えばこれしかありません。 ご依頼主様は60歳ぐらいの男性で、「実家がゴミ屋敷になってしまった」との相談でした。現地は神戸の街が一望できる小高い丘の上にある8DKの戸建住宅で、ご依頼主様が昔家族そろって生活していたご実家になります。外から見るその大きい家は、今から体験する過酷な現場とは思えないぐらい普通の家でした。

「実はそれほど大したことのないゴミ屋敷かな…?」なんて思いながらご依頼主様を待っていました。しばらくして現れた男性は来るなり「本当に大変なことになりました。妹が住んでいるのですが、えらいことしてくれたものです…」困り果てた表情で玄関まで案内してくれました。

玄関前で妹様が、少し空いた玄関から45リットルのゴミ袋にゴミを梱包しておられました。いきなりご依頼主であるお兄様が「ちゃんと片付けとけってゆーたやろ!!」と怒鳴ります。かつてご両親とご兄妹で生活していたこの家は、やがてご依頼主であるお兄様が家を出た後3人で生活しておられました。その頃は家もきれいだったようですが、ご両親が亡くなり妹様独りになると家にゴミが溜まりだします。お兄様が片付けるように言ってもその時は「はいはい」と返事をしていたそうですが、親のいない実家に帰ってくるのは年1、2回、来るたびにひどくなっていく状況に危機感が募っていったそうです。

そして市役所から電話がかかってくるのです。「おたくの家、ゴミが溜まって近隣から害虫発生や臭いでクレームになっています。早急に対応してください!」お兄様は仕方なく片付けをする決心をして、メモリーズに連絡を頂きました。ゴミで閉まらなくなった玄関を開くと、いきなり腰ぐらいまでゴミが溜まり、そこから緩やかな坂を上がっていくような感じで、元々どのような室内なのか想像がつきません。ゴミがドアの半分ぐらいまで溜まっているのでゴミで固定されているためどの部屋もドアが半開きです。8DKの家の空間の6割がゴミと言っても過言ではありません。

そしてさらに驚いたことが、部屋を案内する妹様がゴミの上を歩くスピード、半開きのドアをすり抜ける身のこなしが忍者のように素早いのです。まるでこの部屋の足取りはここしかない!という感じでどこを歩くと安定するか熟知しておられます。妹様にとってはこれが(ゴミ屋敷状態)最高なんだな….と妙に感心してしまいました。 しかし、2tロングのトラック15台分ぐらいの量になるゴミを撤去するには役所の環境課にも色々協力体制を整えないといけません。金額も高額になります。思ったより予算が必要だということでお兄さんも大変困っておられましたが、近隣に迷惑がかかっていることもあり腹をくくってご依頼されました。

見積を終えて玄関を出た時、近所の人に取り囲まれて「いつ作業すんの?たまらんからはよやってや!」とか「あんた市の職員やろ?こんなんほっといて私らの平穏な生活がないがしろにされてるのわかってんのか!」など色々と言われましたが、事情を説明し、ご家族の方が片付ける意思があることなど伝えて、もう少し我慢していただくようお願いしました。 そして後日、史上最強のゴミ屋敷の片付けを行うことになるのですが、作業前夜はかつてないゴミ屋敷という強敵を前に、緊張?興奮?それはかつてラグビーの試合前日に味わったことがあるような懐かしい感覚に包まれていました。

作業当日、私は別の地域で孤独死案件が入ったため、遅れていくことになりました。 作業開始時に立ち会えないことは、スタッフにとってもさぞ不安だったと思います。なぜなら他に現場も入れず、メモリーズスタッフ全員でひとつの現場に注入していることはかつてなく、「よほどすごい現場なんだ」と思わせているうえに私が遅れていくことで、心細く思っていたのでしょう。開始時間10分前、不安は的中します。 まずスタッフの山下君から連絡が入ります。「これ、3日で終わるんですか…?これはちょっと…」いきなり心折れそうな雰囲気です。続いてスタッフの金島君からメールが来ます。「ハンパないっす…」ここは私も「獅子の子落とし」の心境で、喝を入れます「やれ!!」そして不安だらけの中、史上最強のゴミ屋敷清掃がスタートしました。

普通ゴミ屋敷の上を歩くと『歴史』がわかるのです。若いゴミ屋敷はフワフワして、新雪の上を歩くような感じで足がズズッと中に入っていく感覚があります。 言わずもがなこのゴミ屋敷はカチカチです。と言うことはゴミを溜めてはその上を歩き、どんどん圧縮されて高密度になっているのです。 部屋の4角に向けて最近のゴミを積み上げていくのでその辺は若いのですが、部屋の中央付近はコンクリートのごとく歴史を感じさせます。と言うことは、フワフワしたゴミであればサクサク作業が捗りますが、カチカチだとそれをほぐす作業が必要になります。新聞などは湿気で固まり、「ブロックかい!」と突っ込みを入れてしまうほど重く、カチカチです。

しかし経験豊富なメモリーズスタッフは、私が何を言わなくても雪かきスコップ、ショベル、バールなどフル装備で挑んでいます。私が遅れて到着したときに、進捗状況を聞くため全員集合させました。 そうすると現場から出てくるスタッフはショベルやバールなどを掲げて全身真っ黒で出てくるのです。その光景はもはや整理人ではありません。炭鉱掘削現場の出で立ちです。そんな冗談を言いながらも、時間との戦いです。私もスイッチをオンにし人間ショベルカーに扮して搬出しています。

1階を搬出して床が見えだしたころ、ご依頼主であるお兄様は私にある心配事を打ち明けました。「兄妹とはいえ、いきなり行政から何とかしろと言われて100万近く出すのはきついです。でもゴミの下の台所の床が心配なんですよ、そのあと工事とかになったらお金ないですわ」と深刻そうに話されます。 しかし新聞などが圧縮されて湿気を吸ったブロックが何重にも重なっている重み、しかも数十年です、キッチンのフローリングが耐えられるわけがありません。案の定、本来見えてくる床がまったく出てきません。気づけば隣の部屋の床より自分が下にいるではありませんか。

その事実が判明した瞬間、お兄様の怒りは沸点に到達します。「きさま~どないしてくれるんじゃ!」近所の方が心配して家の周りに集まるぐらいに怒号が飛び交うことになりました。 そうして2日間で8tパッカー車6台という処分量は、もちろんメモリーズ史上最高と言う仕事量になりました。自慢じゃないですが、このゴミ屋敷を2日間でできるのはおそらくメモリーズだけでしょう。この経験はスタッフにとってものすごく自信になったことと思います。 そんな思いに浸っているのもつかの間、台所でうなだれているお兄様が「台所なんとかせな、生活できない。でもお金も出せない。どうすればいいのか…」妹様に激高するも、思いやる一面を見せるお兄様に同情しかありませんでした。

深々と頭を下げる妹様、怒りを抑えて私たちを労ってくれたお兄様に見送られて現場を離れました。やっぱりゴミ屋敷を放置すると、復旧するのにかかる費用はゴミ処理だけでなく、修繕費などもろもろ…恐ろしいことになるという現実を知りました。そしてこの現場はメモリーズスタッフに「One for all All for one」の精神を叩き込んでくれました。心を一つにする大切さを学んだ現場でした。

この記事を書いた人

横尾将臣

横尾 将臣
所属:メモリーズ株式会社 大阪本社
役職:代表取締役
資格:グリーフケアアドバイザー1級取得

遺品整理専門業者メモリーズ株式会社の創設者。創業から15年が経った今も、現場の最前線に立ち続けている生粋の遺品整理人。
遺品整理業界のパイオニアとして業界を牽引する一方で、若手育成にも尽力。それらの功績が認められ度々メディアなどに紹介されている。

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