預金通帳が見つからない遺品整理現場

大阪某所で死後20日間で発見された女性がいます。ご依頼主はお兄様。田舎暮らしをされている、人のよさそうな温和な方です。現場は3LDKの大きなマンションです。お見積に行った時に、良い暮らしをされていた事が拝察できました。亡くなった妹様は生涯独身でお子様もおられません。
部屋にはご兄弟と思われる方が数人集まっておられます。「警察の方も、貴重品が分からないと言うんですよ」 お兄様が口を開きました。「私どもですべて確認するのは、到底無理です」お兄様もご高齢で地方から出てきておられるので、時間と労力が掛かります。「お任せして頂けるのであれば、ゆっくり時間をかけて仕分けますよ」 とご兄弟の方に話しかけました。ご兄弟の中にはどうしても、自分達で確認をしたいと言う方がおられましたが「業者さんに任せて、後は私たちで相談しよう」とご長男であるお兄様が 仕切ってくれました。

鍵をお預かりし、1週間後に会う約束をして、それまでに作業を終えて欲しいとの要望でした。こういう場合、貴重品（預金通帳か現金）が出てくれば、ご遺族様も大変喜ばれるのですが 出てこなかった場合、すごく気まずくなります。私は不安もありましたが、やれるとこまできちんとしようと思いました。当日の作業前スタッフに貴重品検索には時間を掛ける事を再度確認し、タンスやチェストなど詳しく調べていきます。印鑑は比較的すぐに出てきました。
それから1時間、特に貴重品や肝心の『預金通帳』は出てきません。一つの部屋が終わりました。隣の部屋へ移り作業開始です。和ダンスの着物の下から不動産関係の書類が出てきました。そこには見たことがない数字の領収書があり 以前にお住まいになっていた持家を売却した値段が1億を超える額でした。だからご長男様は、自分達で仕分けをするのを止めて、私に任してくれたんだと思いました。 おそらくお亡くなりになられた妹様は、たくさんお金を持っているんだろうと･･･だけどそれをご兄弟で家の中をひっくり返して探せば、もめるに決まっていると。だから業者に任せて、後は話し合いにするのがいいのではと考えておられたんだと感じました。そう思うと、益々プレッシャーを感じずにはいられません。
現金か預金通帳かのどちらかが出てこなければ、後味が悪すぎます。 祈るような気持ちで作業を続けました。 不動産の売買で、妹様が相当のお金を所有していたことが判明したので 後はその証拠を見つけなければいけません。

ご長男様の「業者に任せて、後はこっちで話し合おう！」という思いを後悔させてはならないと、真剣に仕分け作業を行います。しかし、現金や預金通帳が見つかりません。お仏壇は合同供養をするので最後に搬出するために部屋にポツンと残していました。作業が進み、残念ながら通帳が見つからず、絶望に近い思いになっていました。
お仏壇も引き出しなどを開けますが、何もありません。お見積の時にご遺族様が、お仏壇はよく確認されていました。「電話で報告しなくては…どのように説明していいものか…」そんな事を考えながら、お仏壇を搬出する指示を出していました。お仏壇は３段に分かれます。本体とその下の台を持ち上げた時に、一番下の枠に紙袋が見えました。「これも供養品かな…」と思いながらも「ひょっとして」という期待感もあり、袋を開けると１０冊の預金通帳が出てきました。私は涙が出るぐらい嬉しかったです。

すぐにご長男様へ連絡を入れました。「通帳がたくさん出てきましたから安心して下さいね」。ご長男様も「出てきましたか！！」と声が震えておられました。私の仕事が不用品処理のように、ただ搬出して廃棄するだけならどれくらい精神的に 楽だろうと思いました。遺品整理には「仕分け」という大役があります。この作業を真剣に取り組むことに、私は注力しています。どれだけ色んな物を仕分けるかという事は、作業の質の評価に繋がるからです。今日もご遺族様に「信頼」というものを得たと思うと、疲れも吹き飛びました。