複雑な事情の遺品整理

皆様から「遺品整理っていい仕事ですね」「感謝される仕事ですね」と、よく言われます。でも、時に感情が入り過ぎて仕事にならない時もあります。お子様を亡くされた遺品整理で、一緒に泣いて整理する時もあります。しかし、感情に押し流されてはプロ失格です。そっと背中を押すことも遺品整理人の重要な役割です。そしてどんなに感情に流されようとも、あくまでお仕事を頂いている依頼人にとって居心地のいい位置で片付けを粛々と進める事こそ、一人前の遺品整理人だと思っています。

先日行った遺品整理現場では、ご遺族である姉妹から委任状を預かったという、近所の方が立会って作業を行いました。古い長屋で何十年もご近所付き合いをしている方のようでした。なぜ娘さんたちがこの整理に立ち会わないのか…近所の方にお尋ねしたところ、元々幸せな4人家族だったようですが、お父様を事故で亡くして、しばらくしてから新しいお父様（今回の故人）がやって来たそうです。
年頃の姉妹はどうしても義父を受け入れる事が出来ず、高校卒業後すぐ家を出て行ったそうです。数年前にお母様が亡くなり、葬儀にも姉妹は参列しましたが、それからこの実家には姉妹は寄り付かなくなったそうです。お母様はさぞお辛い気持ちだったろうと思いましたし、義父も何か接点を姉妹と持ちたかっただろうと複雑な気持ちになりました。

部屋にはお父様と姉妹、3人が笑顔で写っている写真が飾ってありました。どうかこの写真だけでも受け取ってくれないだろうかと近所の方にお聞きしたら「家にあるものは全部処分、何も要らないと言われています」との返事が…。 遺品整理は「生んでくれてありがとう」と思える場にしたい、そういう理想を私は持って仕事に挑んでいますが、残念ながらうまくいかない時もあります。故人とご遺族、ご依頼者の生前の関係など複雑な事情があって当然のことです。たくさんの現場、ご家族を見ながら日々勉強になることばかりです。